俺は今、見知らぬ女に壁ドンされている

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俺と女は、同時にぷっと噴き出した。 「ダメな大人の代表だな!」 「ホントそうねえ。こんな姿、生徒には絶対に見せらんないわあ」 ーーセイト? 女のセリフに引っかかりを感じ、俺は動きを止めた。 その意味を理解して、思わず目を剥く。 「はっ!? なに、お前まさか、教師なの!?」 「なによ?、悪い??」 女は唇を尖らせた。 「似合わん! てかダメだろ、こんな先生! 終電で酔い潰れて他人にゲロかける教師とか!」 「いいじゃない………。教師だって、酔い潰れたい時くらいあんのよ…………」 そう言って女は俯いた。 その顔があまりに淋しそうで。 俺は思わずーー抱きしめていた。 「………なによ、いきなり」 「いや、濡れて寒いかなと………」 「濡らしたの、あんただけどね」 女はおかしそうにくくっと笑った。 「………あんた、名前なんてーの?」 俺は胸の高鳴りを必死で無視しつつ、女の耳許に囁きかけた。 女はすっきりとした声で、「蘭よ」と答えた。 「ふうん、蘭ね。俺は」 「豪くん、でしょ?」 「……俺、そんなことまで喋ったのか……」 俺は照れくささを隠すように、抱きしめる腕に力を込めた。 蘭は黙って俺の胸に額を押しつける。 「……寒いな。とりあえず、どっか暖かいとこ入ろう」 「ぷっ、なにそれ、誘ってんの?」 「野暮なこと言うなよ」 「あははっ、オヤジか!」 俺たちはくすくす笑い合いながら、夜の公園を出た。 ーーえ? その後、俺と蘭がどうなったかって? あんたも野暮だねぇ……。 それは、ご想像にお任せしますよ……。
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