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で、絶賛壁ドン中の女の件。
女は、イスに座っている俺の前に立ち、俺の背後の窓ガラスに両手をついている。俺は、ただただ茫然と女を見上げている。
女は、美人である。
いや、それでは語弊がある。
女は、絶世の美女である。
俺は未だかつてこんなに美しい女を見たことがない。
肌が白い。血管が透けそうなほど。
大きく見開かれたアーモンド形の瞳は黒く濡れていて、濃く長い睫毛に縁どられている。
鼻は高くも低くもなく、すうっと筋が通っている。
唇は薄すぎず厚すぎず、まさに理想的な形で、ピンクのルージュが目映い。
電車の揺れに合わせてさらさら音を立てる真っ黒なストレートヘアは、驚くほどつやつやだ。
細身の身体に、白いパンツスーツがよく似合う。
黒いハイヒールを履いた足首は、目を瞠るほど華奢だ。
――つまり、絶世の美女である。
その美女が、蕩けるような瞳で、うっとりと俺を見つめているのだ。
何が何だか、訳が分からない。
俺は、自分で言って悲しくなるが、非常に平凡な男である。
顔はそれほど悪くない(二目と見られないようなレベルではない)と自負しているが、二流大卒・平均身長・平均年収――三高ならぬ三中。
しがないサラリーマンである。志織が俺を「イマイチ」と言ったのも頷ける。
そんな俺が、今まさに、比類なき稀有な美女から、迫られているのである。
こんな夢のような僥倖が、俺の身に降りかかる日が来ようとは!
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