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冗談じゃねえ、と俺は立ち去ろうとした。
――が、次の瞬間には、思いきりつんのめっていた。
ゲロを垂れ流した女が、がしっと俺の腕をつかんできたのだ。
驚いて視線を落とすと、うるうるの大きな瞳が俺をじいっと見上げていた。
あまりにも綺麗な目に、俺は一瞬フリーズする。
……それがいけなかった。
気づいたら俺は、車掌にずるずる引きずり出される女に引きずられて、一緒に車外に出る羽目になったのだった。
………何なんだ、この三流映画みたいな展開は?
見知らぬ女と共に電車を降ろされた俺は、とりあえず途方に暮れる。
直後、それが終電だったことを思い出し、げんなりした。
女はベンチにぐったりと腰かけている。
確かに美人だが、こいつは疫病神に違いない。
俺は自分の服のゲロ臭さに辟易しつつ、その元凶たるゲロ女を置いて、とっとと立ち去ることに決めた。
しかし。
「おい」という不遜な声に、突如呼び止められる。
振り向くと、女が長い黒髪を揺らして、ゆらりと立ちあがるところだった。
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