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「ちょっと、そこの男……ふざけんじゃないわよ。酔い潰れた美女を置いて、どこに行くつもり?」
完全に目が据わっている。
俺は無視を決め込むことにした。触らぬ神に祟りなし。
――しかし、その考えは甘かった。
「さいってー!! さんざんあたしの体を弄んでおいて、こんなところに捨てるのね!?」
女の叫び声が、深夜の駅ホームに響き渡ったのである。
……とんでもねえ女だ。
俺と同じ電車から降りてきた数人の視線が、一斉に刺さる。
あまりの居心地の悪さに、俺は千鳥足の女を引きずって場所を移さざるを得なくなってしまったのだった。
ぐでんぐでんの女を改札口と反対側のベンチに座らせ、
「酔いが覚めるまでそうしてろ」
と告げ、再び立ち去ろうとした、が。
「……お客様、もう閉めますので」
近寄ってきた駅員が、申し訳なさそうに言った。
知らなかった。地下鉄の駅にも閉店?時間てあるんだな………。
俺は仕方なく、見知らぬ泥酔ゲロ女を引き連れて、見知らぬ駅の改札を出て地上に上がった。
さて、タクシーでも拾ってこの女を詰め込み、サヨナラしよう。……と思ったが、その考えも、やはり甘かった。
予想以上に小さい駅で、タクシーの一台も停まっていなかったのだ。
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