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この小学校は、東西南北に位置する四つの村の中心にある。小夜の住む東の村、古地村は、その中でも唯一、小学校とは山一つ隔てていた。そのため、古地村と学校を結んでくれるバスに乗って、山を越えて登下校する。
「小夜って好きな人いるのか?」
薊の花咲くバス乗り場までの道のりで、クラスメイトの匠にそう訊かれて、小夜は訊き返した。
「なんで?」
匠は黒目がちな瞳で、並んで歩く小夜を見つめながら、答えた。
「今日の発表。二十歳になったら、小夜、お嫁さんになるんだろ?」
「……なりたいなーって思っただけだよ」
小夜は匠から視線をそらして、前を向いた。こころもち、うつむき加減だ。
「そうか」
匠も前を向いた。
「でも、小夜は優しいし、かわいいから、いいお嫁さんになると思う」
ぱっと匠の方を見る。匠は前を向いたまま、少し赤くなっていた。
「……ありがと」
答える小夜の青白かった頬にも、ほんのり赤みがさしていた。
匠は古地村の子供ではない。西の村、奈良井村に住んでいる。
しかし、小学一年生のころから仲のよかった小夜を、バス乗り場まで送っていくのがいつのまにか日課になっていた。
運動神経が良く活発、しかしやんちゃすぎず親切な心を持つ匠のそばにいることに、小夜は心地よさを覚えていた。一緒にいると、安心する。ずっとそばにいたいと思うほどだった。
バス乗り場につくと、すでにバスは到着していた。車両の前に立っていた若い運転手が歩み寄って迎えてくれる。
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