6人が本棚に入れています
本棚に追加
「おかえり、小夜ちゃん。匠君も、いつもありがとう」
「おう! 高也、安全運転しろよ!」
「まかせてよ。匠君こそ、気を付けて帰ってね」
運転手の青年、高也は笑って言った。彼は自身の出身地である古地村の子供達はもちろん、匠の顔と名前もすでに覚えていた。
「さあ、小夜ちゃん、君で最後だよ。もう出発の時間だ。行こうか」
「はい」
匠と別れ、小夜はバスに乗り込む。一番前の席だけ空いていたので、そこに座った。
「……小夜ちゃん」
「はい」
「足、どうしたの?」
運転席につこうとした高也に見とがめられ、小夜は慌ててずりおちかけていたハイソックスをひざ下まであげた。せっかくあざを隠すためにハイソックスにしたのに。
「またお母さんにやられたの?」
「……はい」
小夜の母親・幸は厳しい人格の人間だった。昨日、食事の時に足を伸ばしていたら、思い切りはたかれたのだ。
高也は目を伏せたが、「そっか」とだけ言って、席について、車を発進させた。
車を走らせながら、高也は後ろの小夜に話しかけた。
「六時間目は何の授業だったの?」
「道徳です。……二分の一成人式でした。二十歳になった時の夢を発表しました」
「……二分の一成人式、か」
高也はそれきり黙り込んでしまった。小夜もそれ以上何も言わなかった。
成人の半分である十歳になったことを祝う二分の一成人式。学校では、二十歳になった時の夢を語ったり、二十歳の自分への手紙を書いたりする。
でも、うちは少し違う。
古地村へ向かうバスの中、そう思いながら小夜は黙ってうつむき、ランドセルを抱きしめていた。
最初のコメントを投稿しよう!