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七五三木文乃ーしめぎあやのー
火曜日。
予備校の壁に寄り掛かって景(けい)を待っていた。
文庫本を開いて顔を隠しても、ちらちらとオトコノコが私の方を見てゆくのが分かる。
―イヤな視線。気持ち悪い。
なんでオトコノコってああいう目で人を見るんだろう。ああいう目で見られるのが一番嫌だって知ってるのかな。
ほぅっと溜息をついて、文庫本からそうっと視線をあげた。
講習が終わってひっきりなしに人が出ていく。
―あ、と想った。
あの人がいた。友達らしい人が遅れて出てきて話しかけている。
「ごめん遅れた」
景が隣に立つ。
「? ―どうしたの?」
「あれ…どこの制服か分かる?」
「制服? どれ?」
景が周りを見渡す。
「あっちの二人でいる…」
「あぁ。あれ? ベース板でしょ?」
「ベース板?」
「セーラーの襟が野球のホームベースに似てるから」
「ちがうの」
首を横に振る。
「じゃあどれ?」
「あっち…」
指を指す。
「あの二人組?」
コクンとうなずく。
駅の方に歩きだした二人の後ろ姿を、景は眼を凝らして見ながら
「…たぶん東陵だと想うよ。今どき学ランなんてここらじゃあそこだけだから」
東陵。しっかりと覚えた。
人ごみに溶け込んでだんだんとちいさくなってゆく背中を見ていた。
髪短いんだ。
そういえばあの時は暗くて見えなかったっけ…「―っ!」
突然、振り返った。そのとき、眼があった気がした。あわててうつむく。どうしよう。ちょっと心臓が早い。
「文乃(あやの)?」
景がのぞきこんでくる。
「なんでもないっ」
「? …まだ何も言ってないけど?」
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