七五三木文乃ーしめぎあやのー

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◆  水曜日になった。  ―バン。  予備校の机の下にカバンを入れると、何かが落ちた。  …え?  下をのぞきこむと本が落ちていた。  そのまま手を伸ばして拾おうとした。  届かない…  前の列の椅子の下にあって指がちょっと当たるだけだった。  どうしよう…ちょっとまよってから、前の列の間に入った。  スカートを気にしながらしゃがみこんで拾った。  『聖なる場所の記憶』  背表紙にラベルが貼ってある。  図書館の本だ…これ。  どこのだろう?  裏表紙を開ける。  右側の蔵書印に県立東陵高等学校とあった。  左側を見る。  ―あれ?  ポケットが空になってカードがなくなっている。  カードどこだろう?  もう一度しゃがみこんで椅子の下を覗き込む。  「ごめん」  かけられた声にあわてて立ち上がった。  オトコノコが立っている。  え。  あの時の、人。  「あぅ…」と言ったまま後が続かない。  「ああ、それ、俺の」  胸のあたりを指さされた。  「えっ? あ、ご、ごご…ごめんなさいっ!」  両手で抱えるように持っていた本を差し出す。  「サンキュ、な」  本を無造作に受け取り、それだけ言って、すぐに振り向いて行ってしまった。  背中で、肩から掛けたカバンが揺れていた。
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