1人が本棚に入れています
本棚に追加
その後、俺は足早に教室に向かった。
早くしないと、もしかしたらもういなくなってしまうかもしれないから。
彼女は、まだ残っていた。
「あ、どうだった? ちゃんと伝えられた?」
教室で一人、窓の外を眺めていた彼女が俺に気付いて顔を向ける。
「うん、伝えたよ」
「そっか、じゃあ、あたしはそろそろお役御免だね」
冗談っぽく笑う。
「なんか、ちょっと寂しくなるな」
「もう、そんなこと言ってるとまたあの子が不安になっちゃうよ」
「あはは、そうだね。ごめん」
こっちの彼女とは、おそらくもうお別れ。
名残惜しくはあるけど、それは仕方のないことだ。
「別に、お別れっていってもあたしが全部いなくなるわけじゃない。ただもとのあたしに戻るだけ。あたしはずっと君そばにいるよ、あの子と一緒に」
「うん。ありがとう。なんかちょっとだけ新鮮だったよ」
「ううん、あたしも思ったこといっぱい言えて嬉しかった」
彼女が嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ、最後にあたしから……」
そう言って彼女は俺に近づくと――
「――んっ」
そっと俺の唇に、キスをした。
「……へっ?」
急な出来事で反応できずに固まる。
最初のコメントを投稿しよう!