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 じめじめとした、湿気の多い日だったことを、今でも鮮明に覚えている。  放課後、学校から直接遊びに来た、気心知れた幼馴染みの部屋。二人で彼のベッドに腰掛けて、他愛ない会話をしていたときだった。  何故いきなりそんなことを言ったのか、それは分からない。けれど彼は、言ったのだ。 「おれ、亮ちゃんのこと、好きなんだ」  幼馴染みの真剣な目に見つめられて、戸木亮平は、ただ呆然としているしかなかった。  幼稚園から中学二年生の今まで、ずっと一緒だった幼馴染み。男同士よく遊んで、一番の親友。それが亮平にとっての、佐崎翔矢だった。  背丈のほぼ変わらない彼を、亮平は呆然と見つめる。中学に入って、お互い身長が伸びた。体格はどちらかといえば翔矢の方がよかったけれど、それは亮平と比べればの話だ。学生服に包まれた亮平の体も翔矢の体も、細い。  お互い、まだまだ少年で、子どもだ。  けれど翔矢の瞳は真剣そのもので。大きくはない、けれどくっきりとした二重の目に宿る光は、子どもの戯れとは無縁の強いそれだった。  が、真剣だった幼さを残すその顔が、不意に歪んだ。眉根に皺が寄り、見る見る内に目には涙が溜まり始める。  突然のその反応に、亮平はぎょっとして、二重の目を丸くした。 「ご、ごめん、亮ちゃん」  今にも消え入りそうな声でそう言って、翔矢は立ち上がる。 「い、いきなりこんなこと……き、気持ち悪い、よね」 「お、おい、翔……」 「一緒にいたくないよね。おれ……出てくから!」  中学校の制服の袖で目に浮かんだ涙を勢いよく拭うと、翔矢はいきなり部屋の出入り口である扉に向かって走り出した。
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