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しかし扉の取っ手に手を掛けた彼を、亮平は追いかけて、引き止める。
「ま、待てよ翔矢」
出て行くも何も、部屋の主は翔矢だ。顔を見たくないというのであれば、亮平が出て行く方が正しい。
咄嗟に手首を掴んで翔矢を引き止めた亮平は、ふと、掴んだ彼の手首が、異様なほど熱いことに気付く。強く彼の手首が脈打っていて、それが、先ほどの告白が冗談でも何でもないということを、亮平に知らせていた。
硬直するように動きを止めて、翔矢は亮平を見ようとしない。体が小刻みに震えているのは、恥ずかしさ故か、それとも、亮平にフラれるかもしれないという恐怖からか。
「……」
自分と比べれば大きいはずの彼の背中が妙に小さく見えて、亮平はぼんやりと考える。
幼稚園時代からの幼馴染み。何も言わなくても分かってくれる、居心地のいい関係。そんな彼からの告白をもし断ったとしたら――どうなるのだろう。
放課後、毎日のように遊んでいる。
一緒にいると笑顔が絶えなくて、休み時間になる度喋っている。
他愛ないメールや電話をして、馬鹿みたいに笑い合って。
そんな心地いい関係は、なくなってしまうのだろうか。
一瞬脳裏に浮かんだ、別々の生活をする二人。それを想像すると胸が痛んだ。そんなの嫌だと思った。
だから亮平は、ほぼ無意識に、口を開いていた。
「いいよ、付き合おう」
するりと自分の口から飛び出したその言葉に、亮平自身、目を見開いて驚いた。
けれど。
「……へ?」
間抜けな声と共に振り返った翔矢の顔が、それ以上に、あまりにも間抜けで。涙で濡れた睫毛に縁取られた目は、亮平を見つめながら、大きく見開かれていて。
その間抜けな顔に、思わず亮平は、笑っていたのだった。
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