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大学での講義中、眠気に負けて机に突っ伏していた亮平は、突然背中を叩かれて顔を上げた。
その動きでちらりと視界に前髪が映る。上京と同時に茶色に染めた髪は、最初こそ違和感があったが、三年も経てば、逆に黒髪だった自分を思い出せないくらい、よく馴染んでいた。
「戸木ー、爆睡だったなー」
寝起きの不機嫌そうな、細めた目で顔を上げた亮平の眼前には、金色に近い茶髪の、黙って立っていれば正統派のイケメンだと囁かれそうな青年が立っている。ただ、にやにやとした笑みのせいで、アイドル顔負けのイケメンが台無しになっているが。
木杉隼人。大学での数少ない、亮平の友人である。
「……あー……寝てたか、俺」
「おう。爆睡だ」
低い声で呟き、上半身をゆっくりと起こした亮平は、ふあ、と一つ欠伸を漏らす。
教室に講師の姿はなく、生徒の姿もまばらだ。どうやら丸一時限分、亮平は眠ってしまっていたらしい。
「お前の寝顔、ちょっとにやにやしてたけど。なんかいい夢でも見てたのか?」
涙の浮かんだ目を指で擦る亮平に、隼人が好奇に満ちた目で尋ねてきた。
「彼女のいないお前のことだ。そういう夢でも見てたんじゃねえの?」
「違う」
女好きな隼人にとって、大学に入って女友達一人作らない亮平は、あり得ない存在らしい。よくこうやって、異性を絡めた話題を振ってくる。
上京して大学に入り、早三年。大学に入ってから知り合った隼人とのこういう会話にも、もう慣れた。
「……むしろ、嫌な夢だ」
小さく呟いた亮平は、先ほど見た夢に苦渋の表情を作る。
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