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夢というより、過去の話。まだ自分が子どもだった、中学二年生のときの話。
初めて誰かと――幼馴染みの男と、付き合うことを決めたときの、話。
もう遠い昔の話で、思い出したくもない。
「そうなの?」
「ああ」
隼人と視線を合わせず、亮平は頷いた。
無意識に夢の続きが脳裏に浮かびそうになって、亮平は軽く、首を左右に振る。
「ふーん。……まあそれは、どうでもいいんだけど」
「どうでもいいなら聞くな」
「まあまあそう言わず。彼女できてにやけてないかの確認だっただけだって」
「なんだそれ」
「彼女のいない戸木に、俺が素晴らしい場を設けたのです! っつーわけで、今日はひ……」
「暇じゃない」
「待って待って待って!」
なんとなく隼人の話の先が想像できて、亮平は鞄を肩に掛けてイスから立ち上がる。
すると隼人は慌てて亮平の腕を掴み、教室を出て行こうとする亮平を引き止めた。
「どうせ合コンだろ」
「そう! よく分かっていらっしゃる!」
「悪いけど俺、そういうの興味な……」
「頼む! このまま俺に付き合ってくれ! 三対三で揃えたのに、いきなり一人が風邪引いちゃってさ! もうお前しか頼むやついないんだよ! 毎週火曜はバイトも休みだろ?
何も予定ないだろ? この通り!」
軽く腰を曲げて、隼人は顔の前で両手を合わせた。
必死な様子の彼に、亮平は微妙な顔をする。
大学に入学してからの付き合いである隼人は、亮平のバイトのシフトを大体把握している。そしてバイトがなければ、亮平に特に予定がないことも。
「お前の分も金は俺が持つから! タダ飯食えると思ってさ、頼むよー」
「……」
「頼む!」
あまりにもその様子が必死で――亮平は無言で隼人を見つめたあと、大きく溜め息を吐き出した。
「……俺は本当に一円も出さないからな」
「もちろん! よっしゃー!」
低い声で呟くように言えば、隼人は嬉しそうに握った拳を突き上げた。
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