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 機嫌よく鼻歌を歌う隼人の隣を、亮平は並んで歩く。 「ほい、鏡」  髪を手櫛で直していた隼人は、気が済んだのか手に持っていた鏡を亮平へ渡す。 「いらないって」  差し出された鏡には、形のいい眉を寄せ、二重の目を呆れたように細めた亮平の顔が映っている。  鏡に映る自分から目を逸らした亮平は、隼人の手の中のそれを押し返した。 「えー、これから女の子に会うのに? 気にならない?」 「ならない。つかそれ、いつでも持ってんの?」 「そりゃ身だしなみは大事でしょ。戸木ってそういうとこ無頓着だよなー。クールっていえば聞こえはいいけど……。な、もうちょっと笑ってみ? お前絶対モテるから。つかモテてるから!」  突き返された鏡を、唇を尖らせてズボンのポケットに片付けながら、隼人は言う。 「お前だったらすぐに彼女とかできんのに。今までにもいただろ?」 「……」 「戸木って自分のこと話したがらないよなー。まあそこが、ミステリアスでクールだって噂だけど」 「……どこで」 「色んなとこ。顔は格好いいし、クールぶって人と付き合いたがらないけど、困ってる人がいたら放っておけないなんて、完璧じゃん! モテる要素しかない! 分かってる? そこんとこ!」 「……いきなり何」 「褒めてんの! 今だってなんだかんだ来てくれてるし」 「……タダ飯だから」 「またまたー」  明るく笑う隼人から、亮平は無表情に目を逸らす。  人と付き合いたがらない。それはその通りだと思った。  いきなり翔矢に別れを告げられたあの日から、亮平は人付き合いが怖くなったのだ。だから極力、誰かと関わることを避けてきたし、自分のことも話さない。  隼人とこうやって付き合いがあるのは、彼が明るく話しかけてくれるから成り立っているだけだ。もしそれがなければ、亮平は大学に知り合いなどほとんどいなかっただろう。
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