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4
機嫌よく鼻歌を歌う隼人の隣を、亮平は並んで歩く。
「ほい、鏡」
髪を手櫛で直していた隼人は、気が済んだのか手に持っていた鏡を亮平へ渡す。
「いらないって」
差し出された鏡には、形のいい眉を寄せ、二重の目を呆れたように細めた亮平の顔が映っている。
鏡に映る自分から目を逸らした亮平は、隼人の手の中のそれを押し返した。
「えー、これから女の子に会うのに? 気にならない?」
「ならない。つかそれ、いつでも持ってんの?」
「そりゃ身だしなみは大事でしょ。戸木ってそういうとこ無頓着だよなー。クールっていえば聞こえはいいけど……。な、もうちょっと笑ってみ? お前絶対モテるから。つかモテてるから!」
突き返された鏡を、唇を尖らせてズボンのポケットに片付けながら、隼人は言う。
「お前だったらすぐに彼女とかできんのに。今までにもいただろ?」
「……」
「戸木って自分のこと話したがらないよなー。まあそこが、ミステリアスでクールだって噂だけど」
「……どこで」
「色んなとこ。顔は格好いいし、クールぶって人と付き合いたがらないけど、困ってる人がいたら放っておけないなんて、完璧じゃん! モテる要素しかない! 分かってる? そこんとこ!」
「……いきなり何」
「褒めてんの! 今だってなんだかんだ来てくれてるし」
「……タダ飯だから」
「またまたー」
明るく笑う隼人から、亮平は無表情に目を逸らす。
人と付き合いたがらない。それはその通りだと思った。
いきなり翔矢に別れを告げられたあの日から、亮平は人付き合いが怖くなったのだ。だから極力、誰かと関わることを避けてきたし、自分のことも話さない。
隼人とこうやって付き合いがあるのは、彼が明るく話しかけてくれるから成り立っているだけだ。もしそれがなければ、亮平は大学に知り合いなどほとんどいなかっただろう。
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