第二章  許婚

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 2・  高校生の四方桐子(よもかたとうこ)と彼女の両親は、ここ三年程の間。自由に出来る全ての週末を、手に入れた山の小さなコテージで過ごしていた。  東京の都心にある家を離れて、三時間程のドライブを楽しみ。山梨に建てた山荘に遣って来るのが、家族にとって何よりの楽しみだった。  それ程には山深くない場所に、ポツンと建てられた山荘。  彼女の父が敬愛し、信奉して止まない建築家のフランク・ロイド・ライトが、スイスの湖畔の丘の上に建築したという素敵な彼の家を真似て、父が建ててた山荘だ。  休日を家族揃って過ごすその家は、四方夫妻と一人娘の桐子の大のお気に入りの隠れ家で。その他にも四方家は、バードウオッチング用の小屋までも真似て建てている。  コテージを囲む丘一面の芝生まで、ロイドの家を真似て建た徹底ぶりだ。  正規が受難に遭ったその日も、三人は秋の透明な陽射しに映える紅葉を楽しむために山荘に来ていた。  楓の紅と銀杏木の黄金色が負けじと美を競う、その秋の山の霊気に触れて桐子の心は震えた。大好きな山々は、神秘で満たされている。  桐子は、幼稚舎から大学まで一貫教育でその名を知られたミッションスクールの高等部の二年生だった。  まだ幼い童女の殻が背中に付いている様な、可憐で子供っぽい少女。まだ身体も子供っぽくて未成熟だ。胸も腰も、まだ幼い。  だが成績優秀で天真爛漫な美少女は、学園では人気者だった。  他校の男子学生にも評判が良いらしく、可愛い少女は時々、手紙なんかも貰う。  そんな時。年齢よりも幼い桐子は、何時も困惑してしまう。  結局の所、最後には両親に相談したりもする。両親はそんなまだ子供の桐子を微笑ましく思い、温かく見守っていた。  それよりも四方夫妻は、成績が驚く程に優秀な娘を此の儘、お嬢様学校に置くべきか?。それとも、もっと能力を伸ばす事が出来る有名私立大学の附属高校に転校させるべきか? 大いに悩んでいた。  物怖じしない利発で元気な自慢の一人娘の成長が、何よりも楽しみな両親なのだ。連休の三日間を利用して、三人でコテージに遣って来たこの機会に。将来の事を、桐子と話し合うつもりだった。
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