110人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
正規は、夢を見ていた。
あのホテルのベッドで、温かい陽子の身体を抱いている。
腕の中で微睡む、彼の愛しい陽子。そっと抱き寄せて、陽子の髪に顔を埋める。
柔らかな肌の温もりと、優しい女の身体の匂いが彼をまた誘惑した。
その匂いをかいで。「何時もの香水とは違う」、となんとなく思った。
爽やかな薔薇の香りが微かに匂って、彼を包んだ。
思わずもっと強く、抱き寄せる。
腕の中の陽子の、烈しい抵抗にあって驚いた。「いつもと違う」と、意識が少しだけ戻り始めたのだが。また意識が薄らいで夢の中を彷徨った。
突如。目の前に健治と陽子の絡み合う裸体が現れたのは、その時だった。
楽しい夢の、終わりだ。
身体中を駆け抜ける、怒りの焔。
「陽子、如何して僕を裏切ったんだ」
自分の呟く声が、何処か遠い所から聞こえて来た。
ハッキリしない意識の中で、腕の中の女の身体だけが現実だった。
陽子だと、漠然と思った。
触れている身体は、柔らかくて裸に近い。
抱き締めて、下着を脱がせようとする。陽子が、また烈しく抵抗した。
「許さない」、と強く思った。
「裏切った罪を、償わせるべきだ。陽子を、引き裂いてやれ」と、猛々しい男の本能が彼の中で騒ぎ立てる。
無理矢理に、下着を剥ぎ取った。
陽子を、強く抱き寄せる。無理矢理に引き裂こうとして。
やはり彼には・・出来なかった。
愛おしさが、勝った。
陽子を包み込むように腕に抱いて、そっと優しく身体を開かせた。
愛おしむ様に、陽子の中に身体を沈めた正規。
正規には優しい愛の行為でも、何の経験も知識も無い桐子には、恐怖の体験だった。
必死でもがいて、暴れた。
押さえ付ける男の腕から、何とか逃れ様とするのに、大きな男の身体に組み敷かれて、身動きが取れない。
男に、下着を剥ぎ取られて、恐怖に震えた。小さな悲鳴を、やっと漏らした。桐子の脳は、桐子を守るために全ての意識を遮断する挙に出た。
男の声が何度も「陽子」、と囁いて抱き締めて来る。
やがて正規が身体を桐子の中に沈めて、欲望を遂げた時には。桐子は既に意識を失った後だった。
最初のコメントを投稿しよう!