第二章  許婚

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 両親は、仕事どころでは無くなった。  何もかもを放り出して、急いで飛んで来た二人は。桐子を見て、途方に暮れた。両親は怒りを通り越して、もう如何したら娘を守れるかと頭を抱えた。考えるべきことは、まずそれしか無かった。  この事は、噂に為ってはいけない。  娘はまだ十六歳、始まったばかりの人生なのだ。  正規は何も言い訳しなかったし、出来なかった。  ただ、詫びるしか無い。  桐子から両親が少しずつ聞き出して、事情がやっと解った。  正規と両親の話し合いの結果、「桐子が成人したら妻に迎える」と言う約束で。正規は桐子と婚約し、桐子の許婚になった。  百地の家に嫁ぐと云う事なら、世間も黙って見ているだろうと両親は思った。だが本当に結婚させる気など、全く無かった。  如何に資産が数千億円の百地家といえども、問題外だ。  心の奥底では。娘の無邪気な親切に返された、この手酷い裏切りのような出来事に、とても怒っていたし。正規など、殺しても飽き足り無いと思っていたのだから。  それでもこの婚約は、やはり学友達を驚かせた。  相手が百地家の後継者と言う事で、騒ぎに巻き込まれかけた桐子はミッションスクールから、有名私立大学の附属高校に転校した。辛くも噂から逃れたのだ。  だが多感な乙女心は、複雑に傷ついていたし。正規をどう受け止めたらいいのか、まるで解らなかった。  誰にも言えず、一人で苦しんでいた。
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