第二章  許婚

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 その後の六十一歳の紳士は、十六歳の少女とデートを重ねた。一緒にパーラーで色んなパフェを楽しんだのも、娘を持てなかった正智の予てからの夢。  正智はチョコレートパフェが、とても気に入ってしまった。  桐子のフルーツパフェと、少しずつ分け合ったりして楽しんだ。  「生まれて来る筈だった我が子と、夢の時間を過ごしている」、そう思っていた。水族館のイルカのショーを見る為に、二人で江ノ島まで行ったこともある。バレエの公演のチケットを手に入れると、それを口実に可愛いドレスまでプレゼントして楽しんだ。  そんな父の行状に驚いたのは、正規だった。  コテージでのあの朝以来、桐子にどう接して良いのか分からずに、戸惑っている彼なのに。正智は実に楽しそうにデートに出掛けて行く。  正智に誘われて、仕事の合間に桐子とのデートに加えて貰った。  利発で可愛い桐子と、まるで兄妹のように仲良くなった。  正智は桐子と居る時はとっても元気で、信じられないほど機嫌が良い。  そして正親は、陽子に裏切られて受けた心の痛みが、とても軽くなって来ていることに気が付いた。  信じられ無い事に、正規も桐子に会える日を楽しみにしているらしい自分に、気が付いたのだ。だが、まだ十六歳の桐子を女としては見れなかったから、「可愛い妹」と思う事にしたのだが。  その可愛い妹の桐子は、少しだけ正規を男として見ていた。  誰にも言えない、桐子だけの秘密だ。それは誰にも気付かれたく無い少女の、胸の奥にしまった小さな秘密だった。  記憶の欠如だと、心療内科の先生は言った。桐子には、正規に抱かれた記憶が無いのだ。  哀しい事に、初めて女に為ったらしいその体験は、記憶の欠如のより空白のままだ。だから桐子の中には、正規への恨みも憎しみも無い。少しの悲しみはあるが、それだけだった。
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