第三章  男と女

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 「陽子が何をしたのか、調べて見ななければいけないな」、そう思った。部下に調査をするように手配したのだが。その時には、桐子は既に百地の邸を抜け出した後だった。その後の一週間。桐子の行方は解らないままで。正親は満足に眠れないほど心配した。  一週間後のその日。大学に戻って来た桐子は、正智にだけ連絡を入れた。  正智は自分が押さえて置いたマンションの部屋を使う事を条件に、正親には内緒で桐子の自立を認めた。そこは小ぶりのペントハウスで、家政婦付きの部屋だった。  正智は、正親が誘惑されかかったバーラウンジでのあの一件以来、陽子を警戒していた。正規よりもずっと早くに、陽子を調べさせて殆ど全てを知っている。  だから桐子を守る為に、急いで用意した部屋だった。家政婦には、陽子の事は話しておいた。桐子を守る為だ。  実のところを語れば・・正親が陽子と婚約していた頃から、正智は陽子を嫌っていた。あの病に倒れたのも、実は嘘。  結婚を延期させる為のフェイクだったが、とても上手く行った。  あの女がまさか、裏切りまで働いて墓穴を掘るとは。そこは予想以上の上出来だったが、きっと何かが起こるはずだと思って正親を仕事で縛った。それが正親の為だと思ったから、仕事に追われてあの女と会う時間も無くなった哀れな息子を黙って見ていた。  あの出来事の後で。四方家で初めて会った桐子を、一目で気にいった。  「この娘は、亡き妻が正規の為に引き合わせたのだ」、と直感したのだ。  霧に導かれて正親が辿り着いたコテージに、偶然にもたった一人で待っていた娘。その肌で正親を温めて、大事な一人息子の命を守ってくれた。  陽子などに、二度と傷付けるような真似は許さない。  だが・・桐子の行方を正規に教えて遣る気はなかった。眠れぬほど心配しているようだが、これも自業自得だ。  「少しは反省させて遣る」、と決めている。  あのホテルのバーラウンジで、正智が止めて遣らなければ。おそらく陽子の張った蜘蛛の巣にまんまと引っ掛かり。誘惑に負けた正親は、ホテルの部屋でまたあの女を抱いていたはずだ。  確かにあの性悪女は、美しくて魅力的ではあるが。やがて桐子は、あの女など足元にも及ばない美しさと気品に溢れた魔女に育つと、正智は知っている。  彼の妻が、そうだった。必ずそうなると、正智は知っている。  だから正規の目から少しの間隠して、大事に育てて見ようと思っていたし、あの女では到底勝てないまでに成長してから、正規に還して遣るのも面白いと、密かに企んでもいた。
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