第三章  男と女

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 「父と母が居なくなって、一人ぼっちの寂しい時に貴方を失うのが、子供の私には辛かった」  「だから、あんなに取り乱してしまったわ」  「許してね」  正規はあの頃の、桐子を思いやる心に欠けた、自分の冷たい振る舞いを思い返していた。まだ少女の殻を抜け切っていなかった桐子にとって、陽子がした事がどれ程意地の悪い醜い行為だったかも、やっと理解できた。  桐子の心にどんなに深い傷を与えたかを思い、彼のその後の行動も褒められたものじゃ無かったと。彼は真摯に反省した。そんな思いに捕らわれている正親の腕の中で。  桐子はそろそろ、この反省会に終止符を打つ気になっていた。  身体を離した桐子が、正規を覗き込んで囁いた。  「だからね、婚約を解消しましょうよ」  「嫌だッ」、正規が、即座に否定した。  桐子を抱く腕に、力を込めて閉じ込める。  「解消する気なら、如何して僕に抱かれたんだ」  正規の眼が鋭い光を放って、桐子を見据える。  「君は承知で、身を任せた。僕に裸で抱かれながら言う言葉じゃ無いだろう」、怒っているらしい正親。  仕方がないから、正直な気持ちを言ってみた。  「男と寝るって、如何いう気持ちになるか知りたかったのよ。十六歳のあの時の事は、事故みたいなモノでしょ。愛の行為とは程遠かったから・・・」  「何となくね、知りたかったのよ」  正規の怒りは、沸点に達しそうだった。  この娘が何を言っているのか、サッパリ理解出来ない。  「陽子さんが、貴方に抱かれて夢中になったと言ったから。貴方の愛がどれ程のモノか、知りたかったの」  「素敵だったわ。正規さん」  【何を言うんだ、この女は!】、と憤った。  「でも、もう解ったから帰りたいの。明日の講義の準備もあるし・・ねぇ、帰らせてよ」  本当に、頭に来た。  【返してなどやるものか!許さんッ】、また抱き寄せると。  情け容赦なく、激しく愛して遣った。  腕の中で、「もう許して」と泣くから。  もっと燃えてしまう。
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