第三章  男と女

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 翌朝、身体中に僕の付けた愛の痕跡を残す桐子が、恥ずかしそうに眼を覚ますから。  言ってやった。  「婚約は解消しない。僕から離れられない女にして遣る」  意地になって言うから、怯えてしまう。困ったと桐子は思った。  「とにかく、帰らせてよ。お願い」  涙目で頼むから、仕方なく部屋から出して朝食の席に連れて行った。  父が面白そうな顔で、先に朝食の席にいた。  「お早う、父さん」、言って遣った。  昨日は企んで桐子を呼んだ事くらい、解っている。  桐子が女と遊ぶのを止めさせる為に、僕を焚きつけた位の事は、容易に見当が付く。  桐子が父に見詰められて、真っ赤になっているから。  「嬉しい」  口で言うほど平気では無いらしいから、もう少し苛めて遣る。  「食事が終わったら、送っていくよ。何処に住んでいるのか、教えてくれ」、意地悪く桐子を覗き込んで言ってやった  桐子が父を見て「どうしよう?」という顔をするから。まさかと思った。  「言わないと、帰さないよ」、重ねて言ってやった。  父が仕方なさそうに、口を開いた。  「僕が持っているペントハウスに、桐子は住んでいるんだよ」  僕が父を睨み付けて居るので、桐子が困っている。  「つまり父さんはずっと、桐子が何処に住んで居るのか、知っていたと言う事か」、僕の不快はマックスだ。  僕の様子を、桐子がそっと窺っている。  「桐子ちゃん。バレちゃったから、もう邸に帰っておいで。正規が、煩いよ」  「でも正智の小父様、司法試験を受ける心算なんです」  「もし合格したら司法修習生として、二年間は法律三昧の日々ですもの。もう少し、自由に学ばせて下さい」  また僕の方を窺う様に見て、続けた。  「婚約の解消はもう少し先でも良いから、自由に学ばせてもらえませんか?」、不安そうに聞いた。  往生際の悪い女だ。  「ハッキリと言い渡したはずだ」、正親が苛立って声を荒げた。  「婚約は解消しない。昨夜の後で、よくもそんな事が言えるな」  この点では、正智も同意見だ。桐子を逃がさない為の昨夜の作戦だったから、今朝の状況が嬉しくて堪らない。  企て、大成功。  正規に・・火を点けて遣った。
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