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翌朝、身体中に僕の付けた愛の痕跡を残す桐子が、恥ずかしそうに眼を覚ますから。
言ってやった。
「婚約は解消しない。僕から離れられない女にして遣る」
意地になって言うから、怯えてしまう。困ったと桐子は思った。
「とにかく、帰らせてよ。お願い」
涙目で頼むから、仕方なく部屋から出して朝食の席に連れて行った。
父が面白そうな顔で、先に朝食の席にいた。
「お早う、父さん」、言って遣った。
昨日は企んで桐子を呼んだ事くらい、解っている。
桐子が女と遊ぶのを止めさせる為に、僕を焚きつけた位の事は、容易に見当が付く。
桐子が父に見詰められて、真っ赤になっているから。
「嬉しい」
口で言うほど平気では無いらしいから、もう少し苛めて遣る。
「食事が終わったら、送っていくよ。何処に住んでいるのか、教えてくれ」、意地悪く桐子を覗き込んで言ってやった
桐子が父を見て「どうしよう?」という顔をするから。まさかと思った。
「言わないと、帰さないよ」、重ねて言ってやった。
父が仕方なさそうに、口を開いた。
「僕が持っているペントハウスに、桐子は住んでいるんだよ」
僕が父を睨み付けて居るので、桐子が困っている。
「つまり父さんはずっと、桐子が何処に住んで居るのか、知っていたと言う事か」、僕の不快はマックスだ。
僕の様子を、桐子がそっと窺っている。
「桐子ちゃん。バレちゃったから、もう邸に帰っておいで。正規が、煩いよ」
「でも正智の小父様、司法試験を受ける心算なんです」
「もし合格したら司法修習生として、二年間は法律三昧の日々ですもの。もう少し、自由に学ばせて下さい」
また僕の方を窺う様に見て、続けた。
「婚約の解消はもう少し先でも良いから、自由に学ばせてもらえませんか?」、不安そうに聞いた。
往生際の悪い女だ。
「ハッキリと言い渡したはずだ」、正親が苛立って声を荒げた。
「婚約は解消しない。昨夜の後で、よくもそんな事が言えるな」
この点では、正智も同意見だ。桐子を逃がさない為の昨夜の作戦だったから、今朝の状況が嬉しくて堪らない。
企て、大成功。
正規に・・火を点けて遣った。
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