第三章  男と女

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 4・  マンションまで送って来た正親が、部屋をまじまじと見渡した。  家政婦から色々と聞き出してから、また桐子を見て言い聞かせる様に言っている。  「女遊びは、許さないよ。まだ女と寝る程の重症になっていなくて、本当に良かった」  「今日からは僕だけだ。いいね!」  厳しく言い付けると、帰って行ったからホットした。自由だと気が緩む。  そして、つい油断した。  正親は桐子を勝手に泳がせて置く程、甘い男では無い。  その日から厳しい監視が始まった。週末には必ず迎えに来て、キッチリと捕縛された。正規がどれ程熱くて厄介な男か、改めて思い知らされた。  遅く帰ると、リビングの椅子に座って睨んでいる。  「仕事は如何したの。忙しい身の貴方が、こんな所で何をしているのよ」  思わず口走った私を、きつく抱き寄せると言って退ける。  「僕の仕事の邪魔をしたくなければ、邸に戻って来るんだ」  唇を熱く重ねて私から言葉を奪い、抵抗までも封じるから・・困ってしまう。  最悪だったのは、親子で大学にまで現れた時だ。  秋の大学祭の、真っ最中の事だった。  大学院に残る予定だったから、大学祭の実行委員を引き受けた。とても忙しかったから、ついまた油断をしたのが拙かった。  四年生に為って、卒業論文や司法試験の準備に追われ、少し正規と離れて暮らしていたから、「もしかしたら彼も、追い回すのに飽きたかも」、何て期待していたのだけど。すぐに早とちりだと思い知らされた。  それは准教授の男性との打ち合わせの後で、一緒にお茶を楽しんでいた時だった。  「今年のミス・キャンパスに選ばれたお嬢さんは、色白で凄く可愛いから、男子学生の騒ぎようが去年の比じゃ無いわね」、私のお気に入りの後輩だったから、思わず目許も緩む。  「いや、君の方がずっと綺麗だよ」  准教授が熱く見詰め囁くから、思わず赤くなってしまう。  感じの良い優しい男性で、女学生にも人気が高い彼。話術が巧みで、無暗に身体に触ったりしない紳士で、そして美男子だった。言い寄る程では無いが、守る様なエスコートが心地良い。  つい微笑んで、見詰め返したまでは良かったが。次の瞬間に腕を掴まれて、正規に捕縛された。
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