戦いの火蓋は切られた

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「妹の莉奈から話は少し聞きしました。」  変わらずに落ち着いた低い声音。    ……やはりこの人が聖時の彼女の兄貴か  名刺を俺の前に差し出してきた。 「融資課長の木村です。」    それを受け取って俺も名刺を差し出す。 「星野外科病院、事務長の星野煌人です。」  木村課長は俺に鋭い瞳を向ける。 「……事務長?」 「ええ、そうです。  星野病院の経理を統括しています。  病院の経営は院長の父ではなく、事務長の私が取り仕切っています。」  木村課長は頷いた。  その後に今度は工藤に視線を向けた。  同じように工藤にも名刺を渡して、工藤もそれに返す。 「煌人さんの秘書をしています。  工藤と言います。」 「秘書?」  工藤の言葉に驚いたようで、工藤が渡した名刺を凝視している。  個人の病院でたかだか事務長に秘書をつけていることに驚いているのだろう。 「そうです。  煌人さんは星野病院で一番忙しい方です。  煌人さんのスケジュールを管理し、星野病院の柱を揺るがないものにするのが俺の仕事。  この仕事に誇りを持っています。」  工藤は臆すこともなくはっきりと告げる。  工藤の自信に満ちた瞳にフッと一瞬口角をあげる。  そして……  ゆったりとした動作で聖時に向いた。  これは……  本気で入ってるな。  聖時の査定。  実の妹の付き合っている相手としての評価。  将来……  義理の弟になるかもしれない相手だ。  ドクンドクンと俺まで心臓の鼓動がスピードを速める。
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