戦いの火蓋は切られた

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 聖時は一瞬大きく瞳を開いて、そして柔らかい表情を見せた。  そして、フッと笑う。  ……また、驚いてしまう。  まるで別人だ。  俺の知っている聖時とは……  まるで別人。 「……そうだな。  一人じゃ……なかったな。」  聖時は呟くように言葉を吐き出した。  それと同時に俺の前に静かにコーヒーが置かれた。 「どうぞ。」 「ああ、有難う。」  すでにミルク入りのコーヒー。  そのコーヒーの香りを堪能してカップに口を近づける。  いつもと同じ味。 「落ち着いたら一度連れて来いよ。」  コーヒーカップをソーサーに戻しながら何気なく言葉にする。 「……え?」  視線をあげる。 「木村莉奈さん。  今度ちゃんと紹介しろ。」  俺の言葉に驚いた表情を見せた聖時。   「どんな魔法を使えば、聖時をこれだけ変えられるのか……  その方法を知りたい。」  聖時はもう一度フッと笑う。 「残念だが、魔法使いじゃねえ。」 「違うのか?」  笑いながら答えたのに…… 「女神だ。」  恥ずかしげもなく実の兄貴に断言する。  こりゃ、相当だ! 「あはははは。  そりゃあ楽しみだな。」 「……時期が来たら……兄貴にもきちんと紹介するよ。」  聖時も残りのコーヒーを口に含む。 「煌人さん、お待たせしました。」  節子さんの優しい声音と共に朝食が目の前に置かれる。  聖時が食べたものと一緒だろう。  今日は洋食のようだ。  クロワッサンに卵エッグとウインナー  サラダにクラムチャウダー  朝から身体が温まって、尚且つお腹がいっぱいだ。  俺の毎朝は節子さんが作る朝食から始まる。  メニューは毎日違って、和食だったり洋食だったり……  みんな同じものをいただくが飽きたことがない。
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