戦いの火蓋は切られた

30/35
前へ
/141ページ
次へ
「ご馳走様でした。」  両手を併せてその言葉を吐き出すと、節子さんは空いた食器をさげてくれる。  その後に同じようにコーヒーを出してくれる。  上膳、据膳。  家事に関して俺は何かを手伝ったことは一度もない。  まず、キッチンに足を踏み入れたことがない。  それは聖時にしても同じことだが……  俺とは違って一人暮らしも長い。  自分がしなけりゃ何もならないなら……するようになるんだろうか…… 「何だよ?」  ボーッと聖時の顔を見つめていた。 「……いや、一人暮らしが長いと何でも出来るようになるのか?」 「……何でも?」 「ほら、洗濯とか料理とか……」 「ああ。」  聖時は合点の言った表情を見せた。 「洗濯は洗濯機がやってくれる。  でも畳んだりは面倒くさいからな。  基本的には乾燥機に突っ込んでるのをまた着てる。  シャツ系は20着くらい買った。  行ける時にまとめて出すんだ、クリーニングに。」  聖時は淡々と暮らしぶりを説明してくれる。 「料理はほぼしない。  ってか、してる暇がねえ。  掃除機はルンバだ、ルンバ。  勝手にやってくれてるからな。  まあ、そんなに家にもいないがな。」  聖時の語る言葉を唖然としながら聞いた。  質問したのは俺だが……  聖時は適当に向けていた視線を俺に戻した。 「でも今はどれもこれもしていない。  莉奈がいると部屋がいつも綺麗だ。  欲しいものはすぐに出てくる。  食事もな。」  フッと笑う聖時。  いや、どや顔?  きっと……  自慢しているんだ。  俺の彼女すげえだろ。  ってなもんだ。
/141ページ

最初のコメントを投稿しよう!

388人が本棚に入れています
本棚に追加