戦いの火蓋は切られた

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 扉がガチャっと開き、20代半ばくらいの若い男性がこちらを覗く。  視線が合う前に「お待たせして申し訳ありません」と、先に軽く頭をさげた。  俺が腰をあげると同時に二人も立ち上がる。  ……?  融資課長にしては若い…… 「とんでもないです。  こちらこそ貴重なお時間を頂いて本当に有難いです。」  そう答えて頭を下げた。    彼はテーブルを挟んだ向かいのソファの前に来ると、背筋を伸ばして視線を上げてきた。 「わたしは新見(にいみ)、と申します。」  ……ニイミ?  その手には名刺が握られていた。  その名刺に視線を落とす。  さつき銀行 融資課 融資担当 新見悠馬   それが彼の肩書だ。 「……あの……?」  一瞬不安がよぎる。  融資課長自ら出てくる必要はない。  そう判断されたのか。  戸惑った表情を見せてしまったかもしれない。  新見さんは満面の笑みを浮かべた。 「木村は只今電話対応をしておりまして、直に参ります。」  新見さんの穏やかな声音にホッと胸を撫でおろす。  新見さんから名刺を受け取り、俺も懐から名刺と取り出す。  それを新見さんに手渡した。  聖時と工藤も同じように動作を繰り返した。 「お待たせして大変申し訳ございません。  どうぞお座りください。」  新見さんは穏やかな笑顔を残したまま、俺たちに座るように手で促した。 「ああ……どうも。」  ソファに座ると、新見さんはもう一度俺と視線を合わせて、その後に聖時と工藤に一瞥した。 「木村からはわたしも担当になるように申し付けられております。  本日は同席させていただくことをお許しください。」  新見さんがそう言葉を区切ると、もう一度扉をノックする音が響いた。
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