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車から降りるとまたいつものように伊部さんが立っていた。
「星野様、お待ちしておりました。」
丁寧な言葉とともに添えられる会釈。
いつもと何も変わらない。
「知事は?」
「お待ちです。」
俺の言葉に伊部さんはスッと答えて歩き出した。
聖時と一緒に伊部さんの後を追いかる。
いつもと同じ客室。
革張りのソファと高級感漂う大理石のテーブル。
聖時と並んで三人掛けのソファに腰を下ろした。
伊部さんがテーブルにコーヒーを置いていく。
何から何までいつもと何も変わらない。
違うことは
これから俺たちと知事が敵になること。
伊部さんが淹れてくれたコーヒーに手を伸ばしてコーヒーを口に含んだ。
……落ち着け……
大丈夫
絶対に上手くいく
自分に暗示をかける。
絶対に負けない
しばらくすると部屋の扉が開く。
知事は袴姿で現れた。
「いや~待たせたかね?」
ゆったりとした歩調で部屋に入ってくる。
聖時とソファから立ち上がった。
「いえ、こちらこそ遅くなり申し訳ありませんでした。」
知事に言葉を返した。
「まあまあ、座りたまえ。」
知事が座ったのを確認して俺たちもソファに腰を沈めた。
伊部さんは知事の前にコーヒーを置いた。
そして伊部さんを見ると声をかけた。
「呼ぶまで外にいなさい。」
「かしこまりました。」
伊部さんは頭を下げると静かに部屋を後にした。
そして……
知事の鋭い眼光が俺たちを捕まえる。
「今日は二人揃って仰々しいね。
何かいいことでもあるのかね?」
厭らしく笑う。
俺たちに負けるなんて思ってもいないのだろう。
そこに余裕が滲みでていて。
聖時は余談も何もなく唐突に本題に入る。
「正式にお断りに参りました。」
聖時の強い声音が部屋に響いた。
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