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 だが、なぜだか今、それはカイの耳には、まるで口にしている本人自身が、自らに言い聞かせるようなものにしか聴こえなくて――  長い時間をかけて、やわらかく、けれども確かなものとしてカイの腰を揺らし続けてから、フィンはカイの背後から入り直す。  それもまた、前の夜と、まったく同じだった。  角度を付けて真っ直ぐに、フィンが「その部分」を突き上げてやれば、限界まで張り詰め切ったカイの男茎の先端から、白濁がドロリと溢れ出した。  懸命に押し殺す悦楽の悲鳴を喉の奥でくぐもらせて。  でも、遂にはそれを堪えきれず、フィンの腕で、男が啼く。  その男の綺麗に逞しい骨格の肩に、フィンは幾度も口づけを落とした。  あの夜と、まったく同じ場所に。  だが、その夜――  前とは、ふたつだけ違っていたことがあった。  ひとつは、フィン自身、募りに募った熱く白い欲望を放つ時、自らが揺さぶりつくした男を、前と同じにその名で呼ばず、「少佐」と呼んだこと。  もうひとつ。  その夜は、一度では終われなかったことだった。
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