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爆発当時に建物内にいた人間を確認すべく、入退館をチェックするカードシステムのログが最優先で解析された。
リーケ・デ・リーデルが、退館した記録はなかった――
非常招集がかかったといっても、この段階で、カイが直接手を下せることはなんらない。
犯人は自爆している。
共犯者の有無については、スナイデルたちが捜査に着手したばかり。
いずれは、カイの元へと協力要請が来るはずとはいえ、今は――
ただ爪を噛んで、現場を見つめることくらいしかできない。
カイのジャケットの胸ポケットの中では、スマートフォンが、ひっきりなしに震え続けている。
それらは兄嫁、すなわちリーケの母親や、カイの母親であるリーケの祖母から、娘のそして孫の安否について問い合わせる通話の着信だった。
彼女たちとて。
「何か情報が入れば、すぐにカイが連絡をよこすはずだ」ということくらい、十分に承知しているに決まっている。
だがそれでも、もはや、じっと座して待つなど堪らないのだろう。
海軍の高官である兄や海将であった父は、さすがに、そのような騒ぎ方はしなかった。
だが、その自制と自律を妻たちにも求めることは、あまりに酷すぎてできなかったに違いない。
そのすべてが、無理からぬことと。
カイにも、十二分に分っていた。
分ってはいたが、どうすることもできないのだ――
だから電話を取り、「まだ状況は不明だ」と、そんな応答を繰り返す気にもなれずに。
カイはただ、胸の内でスマートフォンを震えるがままにさせておくしかなかった。
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