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――「あれ」以来。
カイからの連絡は途絶えていた。
忙しいのだろう。当たり前だ、そんなことは誰にだって分ること。
だから、カイの方から連絡が来るまでは、決してうるさくすまいと。
フィンはそう心に決めていた。
支援センターでの研修も本格的に動き出していた。
ともかく、今は自分のやるべきことに専念しよう……と。
フィンは日々、それに打ち込んだ。
前々から何とは無しに、自分の中でも分かっていたことだったが。
あの時、カイとともに、部屋の床を磨き上げながら、フィンは、その作業に没頭し、楽しんでいる自分に改めて気づいていた。
僕には、あんな風に身体を使う仕事が、きっと向いているのだ。
そして、ただ身体を使うだけではなく、工夫して設計して「何かを作り出す」なら、多分もっといい。
建築に配管、電気系統。
図面の引き方も見方も、さらには、それらを実際に組み立て上げるまでのことも。
どれも工兵時代に、叩き込まれたことばかりで、手にも頭にもなじみはあった。
だが、実際に社会で、それを生かすには、幾つかの資格が必要になる。
フィンは、試験のための講義へも通い始めた。
座学など、ごく久方ぶりのことで、じっと人の話を聴くということにも、始めはひどく骨が折れたが、とにかくなんとか通い続けていた。
やはり、実習が一番楽しい。
最近では、指の震えも幾分かマシになってきた気もしていた。
爆弾の解体をしろと言われるのでなければ、もう、さほどの不都合はないのかもな……。
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