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フィンはそんなことも感じ始める。
保健福祉省の爆破事件――
その全容が明らかになり、過熱していた報道も、少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。
それでもまだ、フィンのもとへ、カイからの連絡はなかった。
支援センターのテレビやコンピュータで見聞きした情報の中で、ひとつ、ひどくフィンが気にかかることがあった。
死亡した省職員の名前に、「デ・リーデル」とあったこと……。
「リーケ」
そう呟いたカイの声。
それが、フィンの耳の奥に、ずっとずっと残り続けていた。
だから。
今では、フィンの方からカイへと、ただ電話一本掛ける勇気が、どうしても出せぬままになってしまっていた。
フィンの心は、そうやってモヤついていた。
誰かと話がしたい――
なぜだか、ふとそんな風に思いついた。
カウンセラーやなんかとじゃなくて……。
正直、カウンセリングはあまり愉快なものではなく、フィンも二回目以降の予約は、打ちやったままにしてしまっていた。
「この街」には、友人もいない。
否、この街どころか、わが身を振り返って、自分に友達と呼べるような人間など、どこにも、ほとんど存在しないことに、フィンは改めて思い至る。
故郷とは、とっくに縁が切れていた。
支援センターで顔を合わせる連中とは、まだ、ごく当たり障りのない付き合いしかしていない。
「友人」と、強いて挙げるならば、一緒に任地で過ごした部隊の仲間がいるかもしれない。
けれど、帰国後、隊からひどく距離を置いて過ごしてきたのはフィン自身で。
彼らの消息も、すぐに分かるわけではなかった。
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