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だが、そんなフィンの足が、ある夕暮れ時、自然とある場所へと向かう。
無意識に、バスに乗り込んでいた。
そしてフィンは、終点間近のバス停で降りる。
道路を挟んで向こう、花屋の店先にいた店主が、フィンに目を止めて、片手を上げた。
「元気だったみたいね?」
店を閉める準備をしながら、店主がサバサバとフィンに語り掛ける。
「センターはどう?」
「まあ……なんとかやっています」と、知らず下士官の口調になりながら、フィンは応じた。
しかし、そのほかに何と言って話題もなく、ふたりの間に沈黙が流れる。
フィンは「勝手知ったる他人の店」と、手持ち無沙汰で、店の片づけを手伝い始めた。
ふたりは黙々と身体を動かし続ける。
そして、あらかた作業も終わり、あとはシャッターを下ろすのみというところに至って、店主がふと、ポケットからタバコのパックを取り出した。
一本抜き取って咥え、店主はフィンにも箱を差し出す。
今は特に嗜まないが、兵士の「習い性」のようなもので、フィンも任地ではたまに吸うことがあったから、礼を述べつつ、素直に一本、それを拝領した。
ライターの着火する音。
そして、タバコの巻紙がチリチリと燃えるかすかな音が聞こえるほどに静かな夕暮れの中、フィンと店主は、しばしそれぞれに煙を燻らせた。
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