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56  「あの人、何年も、ここに来ている」  「毎月十六日頃」  店主がかつて、そんなことをフィンに向かって口にし、そして「詮索がすぎるわね」と、唐突に言い止めた。  そうか。そうだったんだ。  「ヴェストヴェーグの惨事」――  フィンの中で、パズルのピースが、ひとつ嵌った。  そして店主は、自身の言わんとすることを、フィンが読み取ったことを理解する。 「そう。『あの人』が、毎月会いに来ているのは……その時に亡くなった人なのかなって。その奥の墓地に、あの時の犠牲者のための一角があるから」  ああ、カイ……。   「もしかして、彼、友達のあなたにも話していなかった? フィン」  店主がフィンの瞳を、そっと覗き込んだ。  フィンは返す言葉もなく、タバコを手にしたまま身じろぎもできない。   「でも、それを気にすることないわ」と。  最後のひと口の煙を吐き出しながら、店主が言った。  そして、ポケットからパックを取り出し、もう一本、タバコを振り出そうかどうかためらってみて止めて、それをまたポケットに戻す。 「『言えないこと』もある、誰に対しても、どうしても言えないことも……」 「でも……それは、僕が」 「いいえ」  店主が、そっとフィンを遮った。 「相手が誰であっても、どんな付き合いであっても、それにもかかわらずってことよ……口にすること自体が、ただ辛すぎて」  ひとつ溜息を洩らして、店主が続ける。 「傷口っていうのは、表面は意外とすぐ、一度綺麗に塞がるものだわ。跡形もないようにね。でも、しばらくすると奥の方からまた、白く浮かび上がってくる。傷の根っこみたいなものは、なかなか治らない、閉じ合わさらない。そうやって奥から上がってきた傷跡は、ずっと何年も何十年も消えないわ……一生、消えないことだってある」
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