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フィンは、指に挟んでフィルターぎりぎりまで燃え尽きさせてしまったタバコの熱さにも気づかぬまま、呆然と店主の声を聴いていた。
カイ――
あの「十六日」にも、あの時も。
誰かを失ったの? 誰か大切なひとを。
そして、それが自分のせいだと。
自分が防げたことだったのかもと。
自分が防ぐべきだったのだと。
そう思っている? ひょっとして……。
そんなことを考えてしまっているの?
バカだ。
もしそうなら、カイはバカだよ――
フィンの手がゆっくりと動いて、手にしていた吸い殻をブルージーンズのポケットにねじ込んだ。
続けて、両手を伸ばすと店主の背中を包み込み、ギュッと抱き寄せる。
「ありがとう……」
ハグとともに噛み締めるように言って静かに店主から腕を離すと、フィンは一目散に駆け出した。
ああ……。
カイ。
そんなことに傷ついたりする必要ないのに。
傷ついたりしちゃ、ダメなのに……。
あの人が。
そんなに、壊れそうなほどに真っ直ぐな、むき出しに無垢な気持ちを抱き続けていただなんて。
知らなかった。
僕は気づけなかった、まったく、今まで。
いつだって、僕は涙を拭いてもらってばかりで。
大きく逞しく、穏やかに落ち着いて。
優しい。
……そんなあの人に、僕は。
いつも。
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