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後先もあまり考えぬまま、むやみに駆け出した挙句にバスに乗ったから、戻るのに逆に時間がかかってしまった。
とはいっても、フィンが街中へ戻った時は、まだ、そこまで夜も更けてはいなかった。
電話をしてから、訪問すべきだろうとか。
遅すぎない時間にすべきだろうとか。
頭の中に断片的に、さまざまな礼儀作法が渦巻きはしたが、それでもフィンは直接、カイのもとを訪れるつもりでいた。
忙しくて、まだ家に帰っていないかもしれないな……。
そんなことを思って、フィンは、カイの自宅の最寄り駅で、しばらく時間を潰してみたりする。
もしかして、あの列車に乗っているかも……と。
ホームのベンチに腰かけ、車両が到着するたび、ドアから降りてくる乗客たちに目を走らせては、周囲から頭ひとつ分も二つ分も背の高いはずの、黒髪の男の姿を探してしまう。
随分と長い間そうしていたが、結局カイ・デ・リーデルの姿を見つけることはできなかった。
そして、フィンはゆっくりと立ち上がる。
以前来た時は、スマートフォンの地図を見ながら歩いた道。
だが、それはもう、つぶさにフィンの記憶に残されていて、足は勝手に目的地へと向かっていく。
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