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 古い運河沿いの瀟洒な建物は、すでに闇の中に沈んでいた。  暗くて、周囲の光景はほとんど見えないながらも、フィンは周囲の草花と水の匂いを、はっきりと嗅ぎ取っていた。  インターフォンのボタンを押す。  カイが出た。 「僕です」    フィンの声に少し驚いた風ではあったものの、カイは「……上がってくれ」と言って、すぐさまロックを解除した。  最上階のカイの部屋へと、階段を早足に登り切り、フィンは呼び鈴を鳴らす。  ドアはすぐに開かれた。 「こんばんは、カイ」  とりあえず、フィンは、すこしギクシャクと挨拶をする。  カイは、濃紺のTシャツに黒っぽいジョガーパンツという、めずらしくくつろいだ格好していた。 「こんな時間にいきなり……すいません」  フィンがそう謝ると、カイがゆっくりと首を横に振った。 「いや、こっちこそ、長い間、なんの連絡もせずに」 「きっと忙しいんだって、分かってた。だから、カイの方から連絡があるまではって、そう思ってたんだけど……」  フィンの言葉を聞きながら、ふとカイは、自分が来客に椅子もすすめぬまま、立ち話をさせていることに思い至る。  そして、「ともかく……掛けてくれ、フィン」とソファーを指し示した。  それに素直に従って、フィンはソファーに腰を下ろす。  カイが、棚からクリスタルのタンブラーをひとつ取り出した。
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