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 ソファーの前のローテーブルには、すでに飲みかけの同じグラスがひとつあって、その横には、三角柱のような変わった形の暗緑色のスコッチのボトルがあった。  「グレンフィディック」のピュアモルト――  カイの好きな銘柄を覚えていたくて、フィンは、そのラベルを頭に焼き付ける。 「すまない、ビールはなくて。スコッチでいいか?」  そう言いながら、カイがフィンへとタンブラーを差し出した。  グラスを受け取って、フィンはゆっくりと口をつける。  カイも、その喉にスコッチを流し入れた。  しばらくの間、ふたりは無言のまま、ただスコッチで喉を焼く。  そして、自らのグラスを空け終えた頃合いで、フィンがゆっくりとカイへと向き直った。 「最初に、確認しておきたいんだけど。もし……カイが、僕にもう会いたくないって思っているんだとしたら、そうしたら、僕は……」 「違う」  カイが即座に言い返す。 「そうじゃない。ただ、このところ、色々とあって」 「うん、それは分かってるつもりだよ、カイ……」   静かな頷きとともにこう応じて、フィンは、さらに言い継ぐ。 「あ、それとね、誤解していたら困るから言っておくけど。もし、カイが僕にもう会いたくないって思ってたとしても、僕は違うから。僕は……カイのこと、離したくない。だから、そんなに簡単に諦めるつもりなんかないんだ。覚悟して」  そんな言葉が返ってくるとは思いもかけなかったのか、カイは黒い目を見開いて、頬をこわばらせた。  そして困り果てたように、「やられた」とでもいう風に甘苦く笑んで俯くと、クシャリと前髪を掻き上げる。
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