543人が本棚に入れています
本棚に追加
/307ページ
ソファーの前のローテーブルには、すでに飲みかけの同じグラスがひとつあって、その横には、三角柱のような変わった形の暗緑色のスコッチのボトルがあった。
「グレンフィディック」のピュアモルト――
カイの好きな銘柄を覚えていたくて、フィンは、そのラベルを頭に焼き付ける。
「すまない、ビールはなくて。スコッチでいいか?」
そう言いながら、カイがフィンへとタンブラーを差し出した。
グラスを受け取って、フィンはゆっくりと口をつける。
カイも、その喉にスコッチを流し入れた。
しばらくの間、ふたりは無言のまま、ただスコッチで喉を焼く。
そして、自らのグラスを空け終えた頃合いで、フィンがゆっくりとカイへと向き直った。
「最初に、確認しておきたいんだけど。もし……カイが、僕にもう会いたくないって思っているんだとしたら、そうしたら、僕は……」
「違う」
カイが即座に言い返す。
「そうじゃない。ただ、このところ、色々とあって」
「うん、それは分かってるつもりだよ、カイ……」
静かな頷きとともにこう応じて、フィンは、さらに言い継ぐ。
「あ、それとね、誤解していたら困るから言っておくけど。もし、カイが僕にもう会いたくないって思ってたとしても、僕は違うから。僕は……カイのこと、離したくない。だから、そんなに簡単に諦めるつもりなんかないんだ。覚悟して」
そんな言葉が返ってくるとは思いもかけなかったのか、カイは黒い目を見開いて、頬をこわばらせた。
そして困り果てたように、「やられた」とでもいう風に甘苦く笑んで俯くと、クシャリと前髪を掻き上げる。
最初のコメントを投稿しよう!