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58  ふたたびの沈黙。  けれどもそれは、今しがたまでのものよりもずっと、ふたりに優しかった。 「事件の報道で……『デ・リーデル』って名前のひとが、犠牲者の中に……」  フィンがポツリと口にすると、カイがすかさず、 「姪だ」と応じた。  そしてボトルを手にし、カイが、ふたたびグラスを満たす。  静けさと溶け合うように、モルトの香りが立ち上った。 「……兄とは歳が離れていると、そんな話をしたことがあったな」  カイが低く語り出す。  フィンはまた、頷きだけでそれに応じた。 「だから、兄とは兄弟めいたことをした思い出はあまりない。まるで父親が二人いるような感じだった……リーケは姪というより、歳の離れた妹みたいなもので」    一度グラスに口をつけてから、カイが続ける。 「幼い頃は、俺に良く懐いてくれていて可愛くて……ああ、すぐに生意気になったがな。なにせアイツは頭が良いから」 「カイ……」  フィンが呼び掛ける。そっと、そっと。 「優秀だった。仕事にも熱心で」  訥々と語るカイの低い声は、いつもと同じにく穏やかで、ひどく優しかった。  優しすぎるくらいに。 「よく、カフェに連れて行った。リーケが注文するのはいつも、パンナクッケとココアで……」
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