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完璧な形の顎を上げて、カイがフィンを見る。
そのブルーグレーに揺れる瞳を。
虹色の光を纏う金の髪を。
「来て、カイを抱きたい」
フィンが囁いた。
だがカイは、途方に暮れた少年の目で、ゆっくりとかぶりを振る。
「駄目だ、カイ。僕はカイを抱くよ。おいで、ここに」
フィンの指が伸ばされて、カイの顎に喉の突起に、鎖骨の窪みに触れていった。
ビクリと、カイの身体が痙攣する。
フィンがソファーのサイドテーブルに置かれているスマートフォンに目を止め、それに手を伸ばした。
「ほら……あなたの電話はここにある。大丈夫。もしも鳴ったら、今度は、僕がちゃんと気づくから。心配しなくていいんだ。カイ、何も心配しなくていい」
耳元に指が滑り入ってくる。
それを感じた刹那、カイは、自らのくちびるが目の前の男に奪われていくのを感じた。
やわらかく潤んだ、甘い果実めいた口づけ。
くちびるをくすぐられ、啄むように吸われ、軽く歯を立てるように齧り取られて。
焦らされて……。
「焦らされている」と。
そう感じる自分自身に、驚き、そして恥じらって、でもそれでも堪えきれずに、カイはついに口を開いた。
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