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けれど、「その男がテロリストなのでは?」という疑いは、カイの中から、じきに消え失せる。
男の頬を、涙が伝っていた。
いくすじも、いくすじも。
こみ上げる涙は、まなじりからあふれ出て、頬を伝い、顎先から滴って、きらめきながら床へと落ちていく。
男は、カイに背を向けていた。
なのに、どうして、その男が泣いていることが解るのかといえば、窓ガラスにその男の顔が映り込んでいたからだった。
だからカイには、まるで正面から見つめているかのように、男の泣き顔をありありと見て取ることができた。
男の涙は止まらない。
奥歯を懸命に食いしばっているのが解る。だが、飲み下しきれない嗚咽が、男の喉仏を痙攣させていた。
「かなり大柄だ」といっていいくらいの体格をした男だった。
身長は六フィートを越えていて、身体は、きちんとした筋肉で覆われていた。
短くカットされた明るいブロンドの髪。
着古したジャージーシャツの襟、うなじには、ブルーブラック一色で片翼のタトゥーが入れられている。
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