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 そして、その男は泣き続けていた。  涙か鼻水か、どちらとも言えない何かで、顔はグシャグシャになっていた。  ――まいったな。  カイは組んだ腕を解いて、クシャリと髪を掻き上げる。  降車駅が近づいていた。  次に開くのは、男の側のドアだ。  一歩、カイは足を踏み出す。  列車が緩いカーブを通り過ぎる。  乗客は一様に、バランスを崩して手すりやつり革に手を伸ばした。  だがカイは、身体の軸を微塵も乱さぬまま、ゆっくりと向かいのドアの方へと歩み行く。  列車が、急激に速度を緩め始めた。  いつもどおり、下手な運転だった。  車両が駅へと滑り入った。窓の外が一気に明るくなる。  ガクンとした反動とともに、列車が停まった。  ドアが開く。  カイは男の横を通り過ぎながら、スラックスのポケットからハンカチを取り出すと、男の手の上にそれを置いた。  予期せぬ出来事に、男が瞬いて凍りつく。  一呼吸おいて我に返った男が、慌てて顔を上げ、カイの背中に視線を向けた瞬間、エアシリンダーの音とともに、ドアが閉まった。
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