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「だから、何事も半分にしておきたいのよ。ほら、今日の映画の上映時間は1時間50分だったでしょ?だから私は19時15分に出たのよ。始まってから55分。ちょうど半分でしょ」  彼は難しい顔のまま、半分って……と呟いてから、 「じゃあこの前君が、本は最後まで読んだことはないって言っていたのは、もしかして?」 「そうよ。あの時は飽きちゃうからって言ったけど、本当は自分の意志でやめるの。ぴったり半分のページ数でね」 「ドラマを見るのをやめたっていうのは?」 「もちろん、あれは全部で12話の予定だから、6話までね」 「マジかよ……」と行ったきり彼は口を噤んでしまった。  何ごとか思いを巡らせているようだ。まあ何を考えているのか大体わかる。頭がおかしいんじゃないか。こいつヤバい女かも。それとも、ああそれわかる……なんてことは絶対ないか。  どんな言葉が返ってくるのか期待しながらコーヒーを飲んでいると、 「あのさ、食事もそうなのか?ごはんを食べに行ったとき、結構残したじゃん」 「そうよ。ちゃんと半分計算してたんだから。でもあなたが食べちゃったけど」 「なら、飲み物も……」  彼の視線が私の手元に向けられた。カップの中身はジャスト半分だ。 「うん。これはこの量で終わり」 「どうして。なんで半分にこだわるんだ」  それは、子供のころからの癖なのだ。もともとはおやつだったと思う。誰かに半分ちょうだいと言われたら困るので、全部食べずに残しておいた。結局誰からもそんなことを言われることはなかったが、そうせずにはいられなかった。それを繰り返すうち、だんだん半分とっておくのはおやつだけではなくなった。残せるものはすべて半分残した。漫画は半分で読むのをやめ、ゲームは半分のステージしか進まない。勉強も最後まではやらない。成績が下がろうがその欲求はどんどんエスカレートし、ついには高校も二年の二学期でやめた。就職もせず契約社員となり、それすら契約期間の半分で自らやめた。付き合う男性もいたが、いずれも最後まではいかない。男と女の関係になったとしても、行為の途中でやめてしまうのだ。  洗いざらい説明してあげると、彼は大仰にため息をついた。 「とても信じられない。僕をおちょくっているのか?」 「とんでもない。まじめな話よ」 「だったら僕とも最後までいくつもりはないんだ。結構真剣に考えていたのに」
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