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「ごめんなさい」
しょんぼり項垂れると、彼はふんと鼻を鳴らした。
「まさか君の方が、遊び半分だったとはね」
「あ、うまいこと言うわね。半分つながり」
思わず出てしまった私の茶化すようなセリフで、彼の顔はみるみる赤くなった。
「そんなつもりで言ったんじゃない」
それから勢いよく席を立つと、
「君とはこれまでだ」
私の答えを聞こうともせず、タカシは店を出て行った。
やっぱりこうなるのよね。でも、今までの男に比べたらまだましな別れ方だ。罵詈雑言を浴びせられなかっただけ良しとしよう。
家に帰ると母がいた。
「なによ、来るなら来るって連絡しておいてよね」
「いいじゃない、別に。いきなり来ても鉢合わせる人なんていないでしょ」
「そんなことないわよ。今日だってデートだったんだから」
あら、と母は意外ねと言いたげな顔で私を見る。
「彼氏できたんだ。そりゃそうよね。あんたももう30過ぎたんだから。ちゃんとした仕事があるならまだしも、いまだに契約社員っていうのもこの先不安よね。そろそろ結婚も考えたほうがいいんじゃないの?それでどんな人?仕事は?イケメン?どこで知り合ったのよ?」
勝手なご託と矢継ぎ早の質問にうんざりしながら、
「ご期待に沿えず申し訳ないけど、振られちゃったわよ。ついさっき」
「え?どうして!」
「お母さんも知ってるでしょ。私の癖。例の、何でも半分とっておくやつ。あれが原因よ」
「あぁ……」と母は表情を曇らせた。
「あんた、まだあの癖治んないの?」
「だってしょうがないでしょ。持って生まれたものはそう簡単に治んないのよ」
その時、なぜだか母が息を飲んだ。どうしたんだろうと思い「なに?」と訊ねると、彼女は言いにくそうに口を開いた。
「だって、ほら。今、持って生まれたもの、って、言ったじゃない?」
「それがどうしたの?癖ってそういうものでしょ」
「あんた、覚えてないんだ?」
「なにを?」
「小さいころ、そんな癖はなったのよ。別の口癖ならあったけど」
「別のって?」
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