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「半分ちょうだいっていうのが口癖だったじゃない。お父さんったら、そう言われたらなんでもあんたにあげてたわよ」  まったく記憶にない。考えてみれば相反する癖かもしれない。半分求めるのと、半分とっておくのと。いつからだろう、こうなったのは。母に訊ねると、逆に質問が返ってきた。 「あんた、6歳のころに死にかけたのは覚えてる?」 「もちろんよ。肝炎のことでしょ。でもお父さんが肝臓を分けてくれたのよね」  そう言えば……私が忘れていた半分ちょうだいという口癖。そして、父が分け与えてくれた肝臓。まさか、私が言ったから?いや、そうじゃない。私が父に求めたものは……。 「おかげであんたは助かったけど、そのすぐ後に、急にお父さんが亡くなっちゃってね。それからだわ。あんたが半分ちょうだいって言わなくなったのは。その代り、なんでも半分とっておくようになったのよ。どうしてかしらねぇ」  とつとつと語る母の言葉は、私の耳には虚ろにしか届いていなかった。あの夜に起きたことが鮮明に甦ったからだ。  あの時、私は死にかけたのじゃない。死んだのだ。確かにあの世の土を踏んだ。でも、父のおかげで生き返った。どうやったのかはわからない。父か私のどちらかに特殊な力でもあったのだろうか。ただその時、父に対して例の口癖を言ったような記憶はある。半分ちょうだいと。  あの頃の父は40前後だっただろうか。寿命を80くらいとすれば計算は合う。私の求めに応じ、父は命の半分を私に与えたのだ。だから、私の代わりに父は死んだ。  と言うことは、私は父の魂で生きながらえてきたことになりはしないだろうか。つまり、私の中には父がいるのだ。癖が変化したのもきっとそのせいだ。半分ちょうだいと言われ続けた父が、いつまたそれを言われても大丈夫なように、常に警戒しているのだろう。私の中で。  この考えが正しければ、父からもらった命は40年ほどだ。私に残されているのはあと10年ないかもしれない。早すぎる。まだまだ死にたくない。また誰か、命をくれないだろうか。  そうだ。親というものは子供のためには何でもするんじゃないかしら。父のように。  もしも、私に特殊な力があるのなら……。 「ねぇ、お母さん」  突然の猫なで声に「なによ」と怪訝な表情を浮かべた母に向け、 「……半分ちょうだい」
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