魔王が世界を半分くれるらしいんだが。

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鮮血の如く赤く染まった空に、紫電が轟音と共に響き渡る、この世のものとは思えぬ禍々しい風景が広がる世界。人はその場所を「魔界」と呼び、人ならざるものが闊歩するまさしく暗黒の世界であった。 その大陸の中央に鎮座する漆黒の城、「魔王城」。そこに居を構える魔王の座の下に、本来ならば生活していないであろう人間が4人訪れた。それぞれが歴戦の猛者で、国王の勅命の元、世界を守るために南船北馬東奔西走してきた正義の使者。人はその一団を「勇者」と呼んだ。 勇者の一団が臣下や四天王を打ち滅ぼし、己の元へと訪れるその瞬間を、魔王は内心楽しみにしていた。長きに渡り、己が企てて来た人類滅亡計画を悉く排除してきたその強者を、一目見たいという気持ちがあったからである。そして勇者達が鉄の扉を開け放ち、殺気も隠さずに部屋へと立ち入って来た瞬間、魔王は今まで腰かけていた玉座から腰を上げたのだった。 「よく来た、光の勇者達よ。我が軍勢や謀略をよくぞここまで退けたものよ…敵ながら天晴れという言葉を送らせて貰おう」 何も返してこない勇者たちに向かって言葉を放つ魔王。しかし、魔王は饒舌だった。ここから先は、古より魔王の家系に伝わって来た常套句を今一度問いかけようとしたのである。 「そこでだ、勇者達よ。我が配下に加わるつもりはないか?戦力に長けた剣士に魔法に長けた賢者…その力は我が魔王軍でも活かせるだろう。さすれば命も助け、 世界の半分をくれてやろう」 邪悪な笑みを浮かべながら、そう問いかける魔王。彼の先代もそのまた先代も、同じ質問を繰り返し、その度に断られ、敗れて来た。世界の半分という大きなアドバンテージをちらつかせながらも断られる理由というものを、彼は改めておきたかったのだ。 さて、そんな問いを投げかけられた勇者達は未だ沈黙を続けている。しびれを切らしかけたその瞬間、マントを翻し、背に剣を差した勇者が面を上げた。その顔には、何故か瓶底眼鏡がいつの間にか取り付けられていた。 「では聞きますが、世界の半分とは何をもって半分としているのか教えてもらえますか」 「…は?」 質問を質問で返されるという予想外の展開に、魔王は気の抜けた声を出すことしかできなかったのであった。
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