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トレント
バレアレス海は黄昏に染まっていた。
バレンシアは温暖で降水量の少ない地中海性気候だ。1ヶ月も雨が降っていない。
タンカーが接岸する。
トゥリア川が流れている。
天然のマスがよくとれる。
「先月も洪水があったな?」
サンドラが言った。
中心部にある川床はトゥリア自然公園となって整備されている。
「うん、京都にある貴船は川床で有名だよ」
「あぁ、何度か行ったことがある。貴船ってのは知らないな」
バレンシアってのは夏がやたらと長い。
変わりに冬は穏やかだ。
「地下鉄に乗りたいなぁ~」
「君ってテツなの?」
「あぁ、秋葉テツだからな?」
俺はこの名前でイロイロヒドイ目にあった。
別にテツじゃないし?
秋葉原だって1ヶ月に1回くらいしか行かないんだ。それをテツだのなんだのって!
「2006年に起きた脱線事故はスゴかったな?」
「サンドラも乗ってたの?」
「イヤ、あんときは既に死んでいた」
「北斗の拳みたいだな?」
「ラオウいーよね?43人も死んだんだ」
「可愛そうにな?」
サンドラが厨房に入った。
彼女の作る料理はクソマズイ!
飯を食べるときは人間に憑依するけどさ?彼女のは勘弁だな!
幽霊には舌がない。
何とか洋館を逃げ出した。
バレンシア公営鉄道は路面電車と都市鉄道の事業を運営してる。
バレンシアカードを使った。
1~3日券で地下鉄・路面電車・バスを利用できる他、美術館やレストランで割引が出来る。
エスカレーターが109台、さらにエレベーターが50台も設置されている。
黄色い列車に乗り込んだ。
トレントを目指す。
ガタンゴトン、ガタンゴトン…………
トレントについたのは19時近かった。
塔や要塞跡があるうすら寂しいところだ。
丘陵や低い山地に囲まれている。
「バァさん、あの山は?」
俺は腰の曲がった老婆に尋ねた。
「エル・ベダド・デ・トレント丘じゃよ」
俺の話が通じるってことは死んでるんだな?
「迂闊には近づかん方がいい、山犬が潜んでいる」
幽霊と山犬ってどっちが強いのかな?
「歳をとるってのはイヤだねぇ、私は食道を患って死んだんだよ」
トレントの語源はラテン語で、turritus《塔・要塞》かtorrens《衝動的・暴力的》のどちらからしい。暴力はイヤだなぁ。
要塞の裏手にやって来たときだった。
妙な気配を感じ、思わずバデレールを握りしめた。ヘルハウンドが現れた!
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