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――少し違和感のある日常は、ずっと続くと、夢のように想っていた。
「きゃぁぁぁ……!」
(なんの、声?)
闇夜を切り裂く叫びなんて、ドラマの中だけだと想っていたのに。
ベッドから降り、次の異常に気づいたのは、双子の姉に呼びかけた時。
(姉さんが、いない……)
不安を感じながらも、私は自分達の部屋を出て、階段を駆け下りた。
絶叫の元は、両親の部屋から。
その証拠に、言葉にならないお父さんの声が、扉を抜けて伝わってきた。
不安だったけれど、閉じこもっていても不安なだけ。
覚悟を決め、扉を開けた私が、そこで見たのは――。
「……っ!」
――真っ赤な、紅い花。
横たわる母親の首元から流れる、紅い血。
それが、薄明かりの下、ベッドを一面に染めていた。
(いったい、なにが)
理解できないことの連続に、息を呑んだ私の耳に。
「フーッ、ウァー、ガッ……ッ!」
獣のような叫びが、耳に飛び込んでくる。
見れば、暗がりの中で雄叫びをあげる、不気味な人影。
ルームランプの灯りを弾く白い髪と、血に染まった細い腕。父に抑えられながら、その紅い瞳は、母の方へ向いている。
――真っ赤な、真っ赤な、赤い瞳と同じ色へと。
「……どう、して」
私は、幼い唇を震わせながら、言った。
血を求めて唸る、その存在に混乱しながら。
「どうして、こんなことをしてるの、お姉ちゃん……!」
私の絶叫は、暗い部屋の中で、絶対に聞こえたはずだった。
なのに、父の手の中で暴れる姉は、変わらず唸り続けるだけ。
――血を求めるその姿は、まるで、映画の吸血鬼のようで。
私とまるで似ていない、双子の姉。
飢えを、乾きを、癒すため。
母の血をただ求め、姉は、四肢を暴れさせ続けていた。
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