一輪を夢見て

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 月を見ると獰猛化する狼男、触れるものを無意識に焼いてしまうサラマンダー、頭部のみが異常に発達したぬらりひょん。  いつからか、伝承の存在のような特徴を持ってしまった人達のことを、そう呼ぶようになっていた。  原因も解決法も、不明。政府や医療関係者が一丸となり、ある程度の対策や分析は進んでいると聞いたけれど、対処法は確立していない。  ――姉はその症例の中でも、吸血鬼の因子を持っていると判断された。  厄介なのは、その利点じゃなく、弱点ばかり持っていることだった。  陽に当たれば皮膚はただれ、日中を歩くのが困難。  流れ水を渡れないという伝承をなぞるみたいに、お風呂やシャワーがだめ。  それと、強い匂いの食材を食べることはできず、身体が受け付けない。  食欲は薄い。あまり、食べること自体に興味がないようだった。 (昔は、一緒の食事を、していたのに)  そんな姉の主食は……血を、吸うこと。  少しずつとれなくなった人間の食事を、代替するかのように。 「……まだ、大丈夫かな」  姉は時々、強い衝動に襲われる。いわゆる、吸血衝動、というものだろうか。  それは月の満ち欠けに関係しているとも言われるけれど、結論は出ていない。  予定日は、姉自身も把握していると想う。けど、わかったところで、自分では抑えられないこともある。だから、姉の周囲の私達も、しっかり見ていないといけないのだ。 (専門の人は、いるのだけれど)  むしろ双子の私は、姉に極力近づかないよう、指示されている。  ずっと、誰よりも、姉と同じ身体をしているはずなのに。
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