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「そっか。前の子、辞退したんだっけ」
体質や能力、本人への手当、内申点の優遇。お伽病のパートナーになるための基準は厳しいが、それ以上の見返りもまた大きい。――色々な理由で、途中で辞退する人も多いのだけれど。
(姉さんの魅力に、負けたのかな)
「……私がいるのに、また、ね」
――私なら姉のことを、ずっと支えていける立場なのに。
「美知、一ノ瀬さんに失礼でしょう。それに……」
母がたしなめようと開いた口を、途中で閉ざす。
……それも、わかってる。本当は、発症の危険のある双子なんて、側にいてはいけないことなんて。
「かまいません。これからよろしくお願いします、美知先輩」
後輩の、無邪気で悪意のない笑み。逆に、皮肉屋とよく言われる私は、その笑みに怖さを感じてしまう。
そしてそれは、握手を交わし、彼女の言葉を聞いた時に決定的となった。
「私、とても幸せです。希美先輩の、パートナーになれて」
「……? それは、どういう」
「――去年から、ずっと、憧れていたんです。あの白い唇と、つながれることを」
そう呟く後輩の顔は、ひどく妖艶で――全てを手に入れたかのような、恍惚としたもの。
(手に入れた……なにを?)
握手を終え、場を後にした彼女のことを想いながら、立ち尽くす私。
……ありえない。彼女は、ただのパートナー。
あと一年の高校生活、姉を支えるための、それだけの関係。
――でも、私は、胸の奥の黒い衝動を沈められない。
――なぜだろう。こんなにも、それでいいのだと、言い聞かせているはずなのに。
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