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これからは誰にも迷惑をかけてはいけない。失望されてはいけない。 私は今、一人なんだ。心に強くそう刻み込んだ。 誰にも気を許してはいけない。 誰にも頼ってはいけない。 それなのに、わかっているのに 貴方は私の中の全ての決意を奪って行った。 異動で私のいる病院に来た貴方は その日から私の上司になった。 「今日からお世話になります。佐伯和明です。」 小さくお辞儀をする小さな人だった。 お互い極度の人見知りで数カ月は一切言葉を交わさなかった。 初めの会話は会話なんて呼べるものじゃないくらい短いもので、十秒も口を開いていなかった。 ある日貴方と私の好きなバンドが同じという事がわかり 初めは少しずつ、そして短時間で仲の良い上司、気楽に話せる友達へと変わっていった。 「内緒で島田さんに良いものあげるから住所教えて。」 一人暮らしをして初めて人を家に入れたのが貴方で ドキドキしているのに嫌な感じではなくて、むしろ落ち着いた自分にびっくりして。 二人でカラオケに行ったり買い物へ行ったり 心の距離が縮まっていくのを感じてずっと隠していた前の職場の話をしてしまったり。 好きになっていく気持ちは止まらずにどんどん私の中に入ってくる貴方が少し怖くて でもそれが嬉しくて。 幸せすぎて立ち止まった。 「佐伯さんて結婚……してましたよね?」 私は知っていたはずなのに 「うん。馬鹿な娘も二人いる。」 知っていたはずなのにいけないのに 「俺奥さんいるし子供もいる。でも……ごめんね。好きになっちゃった。」 私は開いてはいけない扉をこの日こじ開けてしまった。
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